長野地方裁判所 昭和55年(わ)211号 判決 1981年5月27日
本店所在地
長野県北佐久郡立科町大字芦田五一五〇番地
有限会社池の平ホテル
右代表者代表取締役
矢島三人
本籍
長野県茅野市北山一、一五〇番地
住居
同県北佐久郡立科町大字芦田五一五〇番地
会社役員
矢島三人
大正一二年一一月一日生
右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官坂井靖出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告有限会社池の平ホテルを罰金一二〇〇万円に、被告人矢島三人を懲役一〇月にそれぞれ処する。
被告人矢島三人に対し、本裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告有限会社池の平ホテルは、長野県北佐久郡立科町大字芦田五、一五〇番地に本店を置き、旅館飲食営業、物品の販売等を目的とする資本金一〇〇〇万円の有限会社であり、被告人矢島三人は、右被告会社の代表取締役として同会社の業務全般を統括掌理しているものであるが、被告人矢島三人は、右被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、経費を過大に計上するなどして簿外資金を蓄積するなどの不正の方法により所得を秘匿したうえ、
第一 昭和五二年四月一日から昭和五三年三月三一日までの事業年度における所得金額が八〇、〇八八、一六八円であり、これに対する法人税額が二八、二九八、九〇〇円であるにもかかわらず、昭和五三年五月三〇日、佐久市大字岩村田字内西浦一、二〇一番地の二所在の佐久税務署において、同税務署長に対し、所得金額は五四、一七一、九三八円であり、これに対する法人税額は一七、九三二、一〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額との差額一〇、三六六、八〇〇円を逋脱し、
第二 昭和五三年四月一日から昭和五四年三月三一日までの事業年度における所得金額が二九八、四五二、九五六円であり、これに対する法人税額が一一六、二四二、〇〇〇円であるにもかかわらず、昭和五四年五月三〇日、前記佐久税務署において、同税務署長に対し、所得金額は一七二、〇七五、一〇九円であり、これに対する法人税額は六五、六九一、二〇〇円である旨の内容虚偽の法人税確定申告書を提出し、もって、不正の行為により右被告会社の右事業年度における正規の法人税額とその申告税額との差額五〇、五五〇、八〇〇円を逋脱したものである。
(証拠の標目)
判示事実全部について
一 被告人矢島三人の当公判廷における供述
一 右同人の検察官に対する供述調書二通
一 矢島静子の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)五通
一 右同人の検察官に対する供述調書二通
一 右同人作成の答申書六通
一 矢島テイの検察官に対する供述調書
一 鈴木君子の検察官に対する供述調書
一 松下鉄也の検察官に対する供述調書
一 山口真一郎の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)
一 右同人の検察官に対する供述調書
一 小川邦男の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)三通
一 右同人の検察官に対する供述調書二通
一 鈴木淑雄の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)二通
一 右同人の検察官に対する供述調書
一 竹内雅裕の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)三通
一 右同人の検察官に対する供述調書
一 矢島拓人の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)
一 右同人の検察官に対する供述調書
一 小池明の大蔵事務官に対する供述調書(質問てん末書)
一 右同人の検察官に対する供述調書
一 小阪都夫、板倉由明、土橋薫、奥野尚一、河西憲昭、久保嘉男、松岡治幸、福井昇、伊藤久一、清水章一の大蔵事務官に対する各供述調書(各質問てん末書)
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の期別売上除外金額内訳表
一 大蔵事務官滝本栄治作成の売上除外金額調査書
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の経費の繰上げ関係調査書
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の(有)京央インテリアとの仮装取引調査書
一 大蔵事務官清水寅男作成の割引債券・同償還益等調査書
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の事業税認定損調査書
一 大蔵事務官滝本栄治作成の修正申告税額との差額説明書
一 佐久税務署長作成の証明書二通
一 佐久税務署長作成の青色申告書提出の取消決議書及び通知書(謄本)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の修正損益計算書(昭和五二年期分のもの)
一 大蔵事務官滝本栄治作成の調査所得(所得による増減金額)の説明書(右同)
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の法人税決議書 (右同)
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の脱税額計算書 (右同)
判示第二の事実について
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の修正損益計算書(昭和五三年期分のもの)
一 大蔵事務官滝本栄治作成の調査所得(調査による増減金額)の説明書(右同)
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の法人税決議書(右同)
一 大蔵事務官藤巻義弘作成の脱税額計算書(右同)
(法令の適用)
被告有限会社池の平ホテルの判示各所為はいずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項に、被告人矢島三人の判示各所為はいずれも同法一五九条一項に該当するので、被告人矢島三人については所定刑中いずれも懲役刑を選択し、被告有限会社池の平ホテルの判示各罪、被告人矢島三人の判示各罪はいずれも刑法四五条前段の併合罪であるから、被告有限会社池の平ホテルに対しては、法人税法一五九条二項を適用したうえ、刑法四八条二項により各罪につき定めた罰金の合算額の範囲内で、被告人矢島三人に対しては同法四七条本文、一〇条により犯情の重い判示第二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で各処断することとし、被告有限会社池の平ホテルを罰金一、二〇〇万円に、被告人矢島三人を懲役一〇月に処し、被告人矢島三人に対しては、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判の確定した日から三年間右の刑の執行を猶予することとする。
(量刑の理由)
被告両名による本件逋脱金額は、計六〇、九一七、六〇〇円にのぼるのであって、その額は決して少額とはいえず、更に本件起訴年度分以前についても逋脱の事実がうかがわれるのであって、かかる被告両名の所為は、国民の基本的な義務を不当に免れるものであるのみならず、まじめに納税している国民の納税意欲を極度に減退させかねないものであって、その社会的影響は甚大であり、また逋脱の手口においても、いわば会社ぐるみともいえる大がかりなものであり、しかも多くの取引先に経費の繰り上げ、水増請求の工作を依頼するなど巧妙、悪質といわざるを得ないのであって、被告両名の刑事責任は重いものといわなければならない。
しかし他方、被告人矢島三人においては、被告会社の業務の性質上景気変動の幅が大きいところから専らこれに備えるために本件脱税に至った経緯がうかがわれること、本件各犯行は、被告人矢島三人においてその最終責任を免れないとしても、その大半は同被告人の妻である矢島静子の直接差配にかかるものであること、同被告人は、本件後その非を深く反省悔悟し、今後は本件脱税の一因となった同族会社特有の経理体制の不備を排し、その建直しを図ることを確約していること、被告人両名にはこれまで格別の前科もないこと、本件脱税分についてはすでに完納されていること等の事情を認められるのであって、これらの事情を総合して考慮した上主文のとおりの量刑をした次第である。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 小林宣雄)